オナニーマスター黒沢を読んだら過去を悔いてブルーハーツを聞いていた話

ふと気が向き、オナニーマスター黒沢という漫画を全部読んだ。

 

このような作品が存在していることは中学生時代から知っており、名前のインパクトから仲間内でオナニーマスターという単語を使っていた記憶があるが、実際に読むことはなかった。

 

感想としては、中学生時代に出会ってなくて良かったかもしれないし、出会ってれば良かったかもしれない、である。

 

まず、漫画自体は話のテンポもよく読みやすかった。シリアスシーンとギャグシーンのメリハリもしっかりしていて、読んでいて飽きることは無かった。

 

この漫画は、中学生の主人公黒沢が毎日「日課」として人気の少ない女子トイレでオナニーをしているだけの漫画だと思った。しかし実際は、クラスのいじめられっ子の北川綾にその「日課」がバれ、その弱みをばらさない代わりに北川の持ちかける取引に応じる、というのが物語の始まりである。

 

その取引というのも、自分をいじめてくる相手への復讐をして欲しいというものであり、この北川という女、基本的にハチャメチャに屑だった。

 

持ちかける復讐も、目に見えていじめられてる相手への復讐から変化し、ちょっとムカつくから復讐してくれ、くらいの物に変化していっている。

 

読み終わったあとに気がついたが、この物語は

・主人公の黒沢翔

・復讐を依頼する北川綾

・クラスの人気者で誰とでも親しくする滝川マギステル

・クラスのオタクグループを統括する明るいオタク長岡圭史

の4人が主となって話の軸になっている。

 

黒沢が好意を抱いていた滝川と、北川が好意を抱いていた長岡が付き合うシーンは普通に胸が痛くなって読むのが辛かった。

 

・この作品、いい人多くない?

この作品全体に言えるのだが、登場する人が基本的にいい人すぎるというのがある。

黒沢は物語終盤で北川から依頼されて行ってきた復讐(いじめっ子の服に精子をかける、滝川の教科書に精子をかける、等々)を告白し、クラス全体の前で謝罪。案の定黒沢は次の日からいじめのターゲットとなる。

しかし、クラスの上位カーストの女と交際し自らも下位カーストからの脱却をした長岡を起点に、彼は少しづつ人との関わりを得始め、最後には卒業後に同窓会に参加し、歓迎される。

 

普通こんなことある?

 

普通ならクラスの女の所有物に精子ぶっかけまくってた男がいたらいじめるだけいじめて卒業したらハイおしまい。これが普通の中学生なように思える。

しかし、爪弾き者になる前から黒沢にしきりに声を掛けてきた長岡といい、自分の所有物に精子かけられたのにそのかけた男と普通に会話する滝川といい、人が良すぎるのではないか。

特に長岡は、自分の彼女が異常な形で性の対象として見られているのに、そのことを気に留めてるのか留めてないのか、黒沢に話しかける。

 

いい人がすぎる。

 

とは言うものの、この人の良さを生み出したのは黒沢が自らの罪を自らで告白し、それによるいじめという罰を受ける覚悟を決めたからこそなのかもしれない。

 

・結局救われてない北川綾

ハッピーエンドのように終わっているこの漫画だが、いじめられっ子の北川綾は結局あまり救われてないような気がする。

黒沢が罪を告白した後は復讐もできぬままいじめを受け続け、最後には手首を目の前で切り卒業式も欠席した。

卒業後高校に進学するもすぐに不登校。しかし、黒沢から同窓会に誘われ、熱い三顧の礼もあってか彼女は部屋を出た。

よく行ったな、と思う。黒沢は自分から虐められることを選択した、しかし北川は虐められることを選択していない。にも関わらず、北川の気持ちをわかった気になった黒沢からしきりに誘われて同窓会に参加した。

普通なら行かないし、どれだけ誘われても響きすらしない気もする。

番外編として、黒沢は北川をいじめた主犯格の須川という女とくっつくのだが、北川がそれを知るよしもないのかもしれない。北川がそれを知ったら確実に闇を抱える気がする。

 

・黒沢と北川の違い

黒沢も北川も、元々の人間性は似通っていた。

人との関わりを拒み、人に嫌われることを恐れている。そのことに自分で気づかず、自分は孤独を選択している、と思い込んでいる。そんな性格だ。

少しばかり似たところがあったからこそ、2人は関わりを持った。しかし、ある所を境に黒沢と北川は性格に差が出る。

それは、黒沢が自分の罪を告白したところだ。

黒沢は、自らがいじめのターゲットとなることで自分の性格を見つめ直し、人と関わることを恐れることを辞めている。踏み出す勇気を得ているのだ。だからこそ、彼は同窓会に歓迎され、須川とくっつくことが出来たのかもしれない。

それに比べると、北川は結局性格を変えることは出来なかった。だからこそ、最後までいじめられ続けた。同窓会に参加した後、北川が高校に通っているという描写があるが、彼女が変われたのかは想像の範疇を出ない。

 

・総括

 この漫画を読み終わったあと、僕は己の中高生活を思い出してみた。恋愛なぞ全くせず、仲良くない人とはワンクッション置いた距離感で話し、事なかれ主義で生活していたように思える。

自分は黒沢のように一歩を踏み出すことが出来なかった。自分は黒沢にはなれなかった。

そんなことを思いつつ、中学生時代にこの作品に出会っていたらと思った。しかし、作品の形が形なため、もし中一の自分がこの作品に出会っていたら、間違った解釈をする可能性もある。特に中一の自分は人間なんてみんな死ねと思っていた節があるので、絶対今とおなじ解釈は出来ないだろうな、と思う。だからこそ、中学生時代に出会ってなくて良かったかもしれないし、出会ってれば良かったかもしれない、という冒頭の感想が出たのだ。

 

・記事タイトルの回収

話は変わるが、自分は小学生時代、初めて人に恋愛感情を持ったとき、偶然ブルーハーツをしきりに聞いていた。そのため、ブルーハーツの曲を聴くとパブロフの犬的に初恋の感情がわき出る。

オナニーマスター黒沢を呼んだ後、黒沢がなんだかんだ恋愛してる終わり方をして、なんかすごく悔しくなった。オナニーしてるだけのはずなのに自分と違って恋愛してるのか……と。

わかっちゃいる、自分の性格がクズで、人を選ぶような立場でもないのに人を選ぶ、長岡や滝川とは真反対である。だからこんなザマなのはわかっちゃあいる。

だからこそ、無駄に消費してきた中高の6年間が悔しくて悔しくて、自分はどうしようもないと。過去を悔やんだ。風呂に入った。ブルーハーツを聞きたくなった。心がやっぱり痛くなった。

 

オナニーマスター黒沢、こんなタイトルして変な感情を自分に植え付けるくらい名作だったのかもしれない。